2012年1月7日土曜日

第2章第5節 (7) 骨と筋肉の疾病

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骨粗鬆症(骨組織の密度の低下)は、骨の形成と自然に起きる再吸収過程の不均衡が原因で起きる。こうした不均衡の原因は、ホルモン障害、あるいは被曝による破骨細胞と骨芽細胞の前駆細胞への直接損傷にある(Ushakov et al., 1997)。リクビダートルと汚染地域の住民は、骨および関節の痛みを訴えることが多いが、これは骨粗鬆症の進行を間接的に示すものである。

5.7.1 ベラルーシ

1.   汚染地域で筋骨格系の発育異常がみられる新生児の数が増加した(Kulakov et al., 1997)。

2.   1995年には、避難者および汚染地域の住民にみられる筋骨格系疾病の罹病率が、一般集団の罹病率の1.4倍であった(Matsko, 1999)。

3.   筋骨格系の疾病が30歳以下のリクビダートルに蔓延した(Antypova et al., 1997a)。

5.7.2 ウクライナ

1.   近年、重度汚染地域の死産児において、骨組織に取り込まれたアルファ放射性核種の水準が上昇した(Horishna, 2005)。

2.   胎盤に取り込まれたセシウム137の水準が1キログラムあたり0.9〜3.25ベクレルに達すると、管状骨構造の脆弱化と脊椎軟骨の破壊につながる(Arabskaya et al., 2006)。

3.   汚染地域では、事実上骨のない状態で生まれてきた子ども(いわゆる"ジェリーフィッシュ・チルドレン")の例が複数ある。これ以前には、1950年代の核実験後にマーシャル諸島共和国でのみみられた病態である。

4.   胎盤中の放射性核種の濃度が高まったことが、汚染地域における新生児の死亡原因のひとつと考えられる(表 5.40)。

5.   死亡した新生児の骨は形態学的な異常を示している。すなわち、骨芽細胞の数と大きさの減少、骨芽細胞と破骨細胞の萎縮、そして、骨芽細胞と破骨細胞の比率の変化である(Luk'yanova, 2003、Luk'yanova et al., 2005)。
表 5.40 妊婦の体と死産児の臓器における放射性核種の濃度
(1キログラムあたりのベクレル)

6.   避難した成人における筋骨格系疾病の罹病率は、ウクライナの一般集団の罹病率よりも高い(Prysyazhnyuk et al., 2002)。

7.   1平方キロメートルあたり 5〜15キュリーの汚染度である地域での1996年の筋骨格系疾病の罹病率は、国全体の罹病率より高かった(Grodzinsky, 1999)。

8.   汚染地域における筋骨格系疾病の罹病率は、1988年から1999年のあいだに2倍以上になった(Prysyazhnyuk et al., 2002)。

9.   リクビダートルにおける筋系および結合組織系の疾病は、2001年には 1991年の 2.3倍になった(Borysevic and Poplyko, 2002)。

5.7.3. ロシア

1.   ブリャンスク州の重度汚染地区では、子どもたちの筋骨格系疾病全般の罹病率が州全体の罹病率に比べて著しく高かった(表 5.41)。
表 5.41 ブリャンスク州の1平方キロメートルあたり5キュリーを超える汚染地域に
住む子どもたちの、全筋骨格系疾病の罹病率(1,000人あたり)。
1995~1998年。(Fetysov, 1999b: table 6.1)

2.   1995年から1998年のあいだ、ブリャンスク州の子どもたちにおける骨と筋肉の主要な疾病の罹病率は汚染地区の方が高かった(表 5.42)。
表 5.42 ブリャンスク州の子どもたちにおける筋骨格系主診断疾病の罹病率
(1,000人あたり)1995~1998年。(Fetysov, 1999b: table 6.2)

3.   成人の筋骨格系疾病全般の罹病率は、ブリャンスク州の汚染地区が州全体よりも高かった(表 5.43)。
表 5.43 ブリャンスク州の1平方キロメートルあたり5キュリーを超える汚染度の地域
における成人の全筋骨格系疾病の罹病率(1,000人あたり)。
1995~1998年。(Fetysov, 1999a: table 5.1)

4.   リクビダートルの62%近くが背中の痛みや、手脚の骨や関節の痛みを訴えた(Dedov and Dedov, 1996)。

5.   診察を受けたリクビダートルのうち、30%から88%に骨粗鬆症がみられた(Nykytyna, 2002、Shkrobot et al., 2003、Kirkae, 2002、Druzhynyna, 2004)。

6.   リクビダートルは同性、同年齢層の一般集団より骨粗鬆症にかかりやすい(Nykytyna, 2005)。

7.   リクビダートルの骨粗鬆症は、歯間歯槽の骨組織をも冒す(Matchenko et al., 2001)。

8.   診察を受けたリクビダートル600人において、もっとも罹病率の高かった骨と筋肉の疾病は、椎骨のさまざまな部位にみられる骨軟骨症と、びまん性骨粗鬆症であった。うち 3.5%の症例では骨粗鬆症に、病的骨折や神経根症、骨痛および関節痛を伴っていた(Kholodova et al., 1998)。

9.   リクビダートルの多くは、骨密度が、該当年齢の基準値よりも16%から37%低かった(Kholodova et al., 1998)。診察を受けた 274人のリクビダートルのうち、62%ほどに骨塩量の減少がみられ、8%に骨粗鬆症があった(Khartchenko et al., 1995)。1986年に事故処理作業に携わったリクビダートルのうち、骨塩損失がみられた者は 42%に達した(ピーク年齢およびピーク重量との比較)。一方で、1987年から1988年に作業したリクビダートルでは損失はこれより少なかった(Khartchenko et al., 1998)。

10.   調査対象となったリクビダートルのすべてに歯周病の疾病マーカーが発見された。88.2%に顎のびまん性骨粗鬆症、33.3%に下顎骨の緻密骨皮質の菲薄化、さらに、37.3%には椎体の骨粗鬆症がみられた(Druzhynyna, 2004)。

11.   ロシア連邦放射線被曝健康管理局のデータによれば、1991年から1998年のあいだ、リクビダートルにおける筋骨格系の罹病率は全住民の罹病率よりも高く、その差は有意であった(1万人あたり 650人対 562人。Byryukov et al., 2001)。

12.   1994年から1998年のあいだ、ブリャンスク州のリクビダートルにおける筋骨格系の罹病率は重度汚染地区の住民全体よりも顕著に高く、また、州全体およびロシア全体と比べても大きく異なっていた(表 5.44)。
表 5.44 ブリャンスク州の、1平方キロメートルあたり5キュリーを超える汚染度の
地域のリクビダートルおよび成人人口における筋骨格系疾病の罹病率(1,000人あたり)。
1995~1998年(Fetysov, 1999a: table 4.1)



5.7.4 結論

チェルノブイリによる放射能汚染が筋骨格系に与えた影響に関するデータはごく限られているが、それはこうした疾病が重要でないからではなく、生命維持という観点から見てほとんど注意を喚起しないためである。骨と筋肉の疾病は取るに足らない問題ではない。歯が失われれば食べる能力が衰え、食事効果に二次的な悪影響が出る。骨や筋肉の慢性的な痛みは、機能の喪失や、生命を維持するのに必要な活動が制限されるという結果をもたらす。筋骨格系の欠陥は成長や活動を阻害するので、この問題は子どもたちにとってより深刻である。

新たな資料が公表されるにつれ、チェルノブイリによる放射能汚染が骨や筋肉に与えた影響に関する新たなデータが得られることは間違いない。骨の器質的な障害(骨減少症、骨粗鬆症、骨折)がリクビダートルの大多数ばかりでなく、子どもたちも含む汚染地域の住民の多くにもみられる特徴であることは今や明らかである。

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